白くフヤけて、罎の底へ足の毛が抜けてたまっているのが私を大変不愉快にした。それから或る無頭児の罎詰の前迄行くと、令嬢の顔が不意に歪むのを私は早くも発見した。
「畜生! この女は低能児をはらむ恐ろしさを又しても妄想して悩んでいる。」と私は腹の中で叱言を洩らさなければならなかった。
 二人の女性が私を注視しているために、私は何時も気が落ち着かなくなり、勢い挙動も荒くなり勝ちだった。勿論注意深い院長は私が心を労らせている原因を見て取らずには置かなかった。
「私は外囲が心へ及ぼす効果と云うものに就いて、大きな興味を持っているのだ。何うだね。お前はあの紫の室で少し暮して見ないか。きっとお前の心がよくなるから。」善良な院長は浮かぬ顔をして斯んな風にすすめた。紫の室と云うのはヒステリー患者を治すために院長が業々《わざわざ》造ったものであって、その中央に小さな噴水の出来ている静かな落ち着のある室であった。四方の壁も寝台の足もその他の装飾も全部紫色を以て塗られてあった。
 私は元来紫色が大変にきらいであったから、此のすすめを何うかして逃れようと思案した。
「先生は紫色が人間の悪心を矯正するとお考えなので
前へ 次へ
全146ページ中45ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
松永 延造 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング