、大通りを歩くと皆が二階の窓から睨めて、唾で丸めた紙を投げるのです。」私は斯んなふうに子供らしい嘆きを洩した。けれども私を愛さぬ父は彼自身の少年時代が矢張り之と同じだったと答えた。そんな嘆きは段々と凝集して大きい塊りになって行き、ああ遂に全然別のものと変態して了ったのであった。
誰に向けられるのでもない漠然とした怨恨の情と、縁の下の蔓のようにいじけた僻みの根性とが、私の心を両方から閉ざす二つの扉となったのは極めて自然である。斯んな説明は誰も陳腐であるとして排斥する程、私の心の変化は普通の成り行である。
だが、私が十九才程に成長した時、一つの出来事が起って、其れが他の出来事をさそった。私の父は重い病気の後に死んだ。母は既に約束してあった男と早速何処かへ逃げて行って了った。遠く出稼ぎに出て居た私が駈け附けた時には、薄馬鹿の妹が小さく暗い家に足を投げ出して、何か考え事をしているのを見た丈であった。考え事と云っても別段分別の籠ったものではない。唯ウツラウツラとして時間のたつのを待っていた迄なのである。私も妹と一緒にウツラウツラとなって行った。何故か此の時私は自分が一年間でも、わざと犬殺しを
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