に紛乱の元である。私の友達は鞭を持って来て、あの職工を打とうとしている。けれど、鞭の音はそもそも何を意味するか?
懲罰?……懲罰ならば痛みを以てしてはいけない。
訓戒?……訓戒ならば痣を造る必要はない。
復讐?……復讐ならば――いや復讐でも、やはりもっと柔しくしてやらねばいけない。復讐を復讐でないものに変化させ、羽化させねばならない。毛虫は美しい蝶とならねばならない。之が昔からの言葉である。
ああ私は之から何うして生きて行く積りであろう。それは分らないが、鞭丈は何処かへ捨てて了う可きである。手ブラで歩いて行け。それ丈が兎に角分って来ている。
それから未だ考える可き重要な点が残っている。何んなにしても、あの職工を、もっと善良な方へ歩かしてやりたい事、その為には何んなに困難な施設をも怠ってはならぬと云う事である。
早く絶望し易い人はもう断言し宣伝している。あんな根からの悪人の改良を無駄に続けるよりも新マルサス主義にでも改宗して了え! と。
それも一理であろう。けれど我々の勇気と知見をためす為めに、もう一つの積極的な道が開けているのを何故見ないか?
我々は立って、そして叫ぶ。
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