判断ではない。思慮ではない。生れつきの本能――生れる前からの縁……それに依って彼の女はセルロイド職工を選んだ。縁は合っていたのか? 子が神から授けられた。彼の女はあの青年を心の底から愛していた。それにも拘らず彼の女は私の妻であり、姑女の怒りを我慢する嫁であった。子供は育って行った。遠慮なく育って行った。縁、あの青年とあの少女には縁が……深い縁が定められていたようではないか? ああ皆之が死の原因である。いや、むしろ、結果、色々の事の結果、そして死の前提であった。
私は一時に思い出す。そして一度に悲しみがこみ上げる。私の親切の不足――一寸した心の労れ、――実に一夜の間丈に過ぎぬ愛情のゆるみ――その痛い思い出が私を責めさいなんで、夜も私を眠らせて呉れない。そして、ミサ子の幻は何度も現れて、その職工を許してやれ、彼の女が許している如く一緒に許してやって呉れ、彼の女を愛する代りに彼を愛してやって呉れ、と訴えるのである。それはもう本統である。
私の生活が斯んなに破壊されても、それを怨むのは喜ばしい事ではないのであろう。ミサ子の幻は私に正当な処世法を教えているのが確実である。幻の教訓……それは既
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