た愛の不足! ああそれは原因でもあり、結果でもあるのだ。
 下さるものを拒んだのが間違いの原因であった。いや原因はもっと前にある。之は寧ろもう結果に近い一つの過失ではなかったか?
 私は明晰には考えられない。何故なら……いや何故ならではない。之は何かしらあのセルロイド職工に、又あの断崖に関係していたに相違ない。私が悲しい足取りで、あの職工を呼びに行き、彼にミサ子の死に際を見せてやり、又ミサ子の霊へ一つの重要なそして最後の思い出を土産として持たせてやったのも、実に、私がそんなに漠然とした関係を直覚したからであった。
 私は何うしよう。又分らなくなっている。ミサ子は私を恨めし相に睨めた。
 そしてセルロイド職工を微笑みを以て眺めた。そして誰れが彼の女を殺したのであろう。
 一体之は何であり、何の結果であるか?
 私は義侠心から彼の女を愛したと思われている。そしてあの職工は唯淋しさから、或いは戯れに類する嫉妬から彼の女を愛したと思われている。そしてその内何方が正しいか? いや、正しくなくとも、何方が正しさに近いか? 分りはしない。唯ミサ子の心は何かしら独自のそして特殊の判断を下していた。いや
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