だ、胎児の屍体が隠してあって、それが匂い出した為め、近所の大騒ぎになっているんです。」
 おお、之が本統の事であろうか? ミサ子は家出したのである……家出……家出と犯罪……そして転居……転居と犯罪……警察官の嫌疑は当然であった。
 ミサ子はその行衛を見附けられなかった。そして、彼の女が居たと叫ばれた時には、もう元通りの彼の女ではなかったであろう。何んなに私の記憶が乱れようと、それ丈は確かな事である。
 彼の女は横って居た。彼の女は骨を砕いていた。そして、そして何か? そして、もう妊娠もしていなかったのである。この事が死の重大な原因であったのか? 何? いや原因ではない。寧ろ結果と云うベきであろう。実に、実に悲しむ可く痛ましい結果。結果として表われた事実なのではないか。
「お母さん。貴方は知っていたんですか。」私は斯う尋ねて眼を閉じた。
「知らない。知らない。この事はすべて秘密だらけです……第一、全体、それは誰の子なのです?」
 私は息が詰まった。誰の子? 神よ、貴方は私に子を授けて下さった。それだのに、私はそれを受け取れなかった。何故か? 一寸した行きがかり――一寸した不注意――一寸し
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