タミヤ人は三千年前に何んな頬髯の生やし方をしていたか? 斯んな考古学は厭世の一種であって、自分の汚さに困じ果てた人の息抜きに過ぎないのではあるが……
「私はもっと隅の多い室に住みたい。暗さは之で恰度好いから……」そして空想の中に於てではあるが、華麗な伊太利風の模様のある厚い布で白い光を屈折させ、銅の武具とか、古い為めに暗くなっている酒の罎とか、アラビヤ人のかつぎとかで、色んな色の影を造って見るのである。私は菱形の盆を大きくしたような寝台に平臥して、金縁の附いた天鵝絨の布団を鼻の下迄引張るのである。斯うするとまるで孔子の髯の様に長く、黒い布が私の足に達するであろう。
 いや構わない。もっと妄想――即ち思想の膿を分泌せよ!
 支那風な瑪瑙の象眼に、西欧風な金銀の浮彫りを施した一つ小箱には、自分の眼底迄が黒い瞳の闇を透して写り相な磨きが掛けてる。その中には暗中に生活した為めに、肉体の弱り切った子供の様に見える所の、或る秘密なミニエチュアを二枚合せにして蔵している。それは海の中にある極楽の様に冷や冷やとした画であるが、見ていると記憶が乱れ切って了う様に、四ツの焦点が注意を掻きむしる。自分が橋を
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