断食し、死のうと思って歩き廻ったのです。そんな悲惨な事があって好いものだろうか? 然も、此処にある。此処に厳として存在する之は何ですか?
私は何うすれば好い? ミサ子は私の家へ来るより、残酷な父の許にあった方が幸いだった。父の家にいるよりも、あの小鳥屋の店にいた方が仕合せだった。取り返しのつかない事ですが、私は番いの紅雀を斯うして病室へ運んで来ました。来るには来た! だがもう見て呉れる眼が閉されて了っている。」
気が附かずに居たが、窓際には小鳥の籠がかけてあったようである。ハッキリは分らぬが、何でも、あの小鳥の鳴き声――節の終りの所で、物問う様に、調子を上げるその声が、恰度、悲愁を持った懺悔の聖歌の如く、私の耳へ幽かに入って来るようであった。
だが、その事ではない。鳥の声なぞは何でもない。私は、もう言葉が出ない。何んな風に云い表わそう。戦慄なぞと云う文字さえ、一つの弱々しい遊戯としか感ぜられぬではないか。恐怖、驚愕、そんな文字が何か? 私の心持の何十分の一が、それに依って伝えられよう。
駄目である! 私は歯痒くてならない。
聴き手よ。貴下は竜巻を見た覚えがあるか? 黒い煤のよ
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