一円八十銭しか持って居なかったミサ子は、それを全部出して、汽車の切符を買って了ったのです。何故汽車へ乗ったか? 何処かへ逃げる積りだったのか? そうではない。唯進退谷って、もう行き場がなくなったのです。世界は斯んなに広いのに……罪と痛みに追われる者は、その中に安心して住む所を見出し得ないのです。可哀相なミサ子! お前は何処か遠い停車場迄用もないのに乗り越しをして了った。それから、きっと歩いて息を切って、再び此の街へ帰って来たのだ。お前はそんなに無駄な骨折をしながら、迷って泣き暮したのだ。きっと野原や知らぬ家の物置やに眠らねばならなかったろう。ああ誰れが云うか――野原に寝る少女は不良だと! いや、その少女を野に眠らせるようにする私達の方が……私の方が……何んなに不良だろうか! 見てやって下さい。見て……。僅かな日の中に、ミサ子は斯んなに痩せ細って、年を取って了った。悩みで痩せ、それから断食で細ったのだ。何処かの泉で飲んだ水は、皆涙になって了ったんだ。斯んなに眉毛が取れて了って、そして、恐しい事に、髪の毛があんなに抜けて落ちる。
断食……ミサ子は態と食べずに居たに相違ない。死のうと思って
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