何丈か下の砂路へ飛び降りて、自殺を計ったのであった。
 彼の女は死に切れないで、病院へ連れて来られた。けれど大きい怪我――諸所の骨が破れたらしい――は、もはや彼の女を三日と此の世に置く事を許さなかった。
 教員は何時もの柔和な言葉つきで、彼の女の死ぬ前に一度丈会ってやって呉れと私に嘆願した。
「何故です?」と私は恐怖してたじろいだ。
「今度の事件は少しばかり貴方にも関係があるように思えますし、屹度ミサ子は貴方に会いたがっているに相違ないのです。」之等の言葉の中には一つの怨恨も憤怒も含まれていなかった。それどころか、教員の眼の中には、澄んだ涙が湧き起って来て、私に憐れみを乞うている如くにさえ見えた。私は顫えて彼の肩に靠れ、進まぬ足で病院に向った。それから?
「さ、貴方の待っている人が来たよ。ミサ子!」と教員は悲愁の限りを尽して云った。けれども人事不省に落ちているらしい女性は眼を開く事が出来なかった。之は何たる急激な変化であろう。
 教員は深い嘆息と共に、私の方を顧み、そして世にも哀れな面持で、語り継ぐのであった。
「聞いて下さい。おお、見て下さい。この凄じい痩せ方を! 家を出る時、たった
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