手段ではないだろうか。
 私は出来る丈善い行いをしようとして、然も斯んな恐ろしい罠へ落ち込んで了っている。脳髄は腐敗して了ったように、もう役に立たず、思考力を集注しようとすると、軽い眩暈が起って来る丈であった。
 けれど、そのような懊悩は一ケ月位で消散し初めた。そして、私の眼前には時間につれて色々の事件が生起した。ミサ子は約束通り教員と結婚し、悪い父親とは金銭を与えて縁を切った。若い二人は大変睦まじく日を過しているようであったが、何故か急に転居して、住所が不明になった。私はその頃遠慮して教員を訪ねた事もなかったのである。[#底本では、「のでる。」の誤り]
 転居と同時に、ミサ子の行衛が不明になった事、誰かが、何処かの停車場で、彼の女を見掛けた事、彼の女は汽車の中に眠っていて、下車す可き駅を乗り越していた事、なぞが噂された。私は淋しい悔恨の生活を続けつつ、それらの話に可成りな注意を払い、興味以外の同情を以て物を見るように心を落ちつけていたのである。
 俄然、もっと大きな破壊が起って来た。
 私は考える事が出来ない。けれど、起った事は凡て悲しい事実なのである。
 ミサ子は森のある断崖から、
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