かったんです。許して下さい。そして、あの人の所へ行って下さい。何も彼も秘密にして……」
「私は、斯うなるのを予期して、もう早くから諦めていました。貴方はもう私を嫌ってお出なんです。皆察しがつきますわ。貴方は三度目に会った時、もう私に厭きているんですね。何て悲しい、けれども吹き出したいような可笑しさでしょう。斯んな事がそう方々にあるとは思えませんわ。」
「貴方はもっと素直な花嫁になって下さい、私が邪魔をしようが、すまいが、何うせ貴方は初めから処女と云う訳ではなし……。」
「何です? 聞えませんでした。も一度、も一度、云って下さい。」彼の女は私の胸に喰いついて来た。そして、私の顔を眤と窺った。闇が濃く流れて、何も見えはしなかった。
私は厭きて了ったのである。
彼の女は諦めていて、それを恨まずに唯泣いたのである。おお何たる奇怪な夜であったろう。
恐るべき微笑
狂暴な悔恨が再び私の胸を喰い破り、肋骨を痛めつけずにはいなかった。何う云う風に彼の女へ謝罪す可きか? 何んな風に教員へ弁解す可きか? それとも一層何も云わず、一切を秘密に付し、私丈他の都市へ去るのが、皆を幸福にする唯一の
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