を矢張り愛して下さらないんですもの。私分って居ります。貴方は唯邪魔がなさりたいんですわ。」
「おお……」と私は自分とそして彼の女に驚きの目を向けた。
「邪魔?」と私は繰返した。
「そうですわ。だから、貴方は私と斯んな関係になって居ても、結婚はして下さらないんです。いえ、却って、あの先生の方へ思い返してお嫁に行けと仰言るんですわ。ああ、私は何て気の弱い女でしょう。落ち度……あの落ち度のために、あの落ち度以来私気がひるんでいるんですわ。私は何うしても貴方に抗う事が出来ませんでした。そして、今では……一生でも貴方と一緒に居たいと云う儚い願いで一杯なので御座います。」彼の女は涙を袖に受けて泣き続けた。
「では私が勝ったのですね。」私は自分で斯う云って、その残忍な言葉に自分から恐怖した。
「勝った? 何に? 誰れに? 私に? あの方に?」と逆上した彼の女は早口に叫んだ。
「けれど、あの教員には私も大変恩になっている。私は貴方をあの人から盗み取るような不義理は出来ないんです。」
「不義理? 出来ない? それでは、何故、何故、斯んな事をなすったんですか?」
「許して下さい。私は何うしても我慢が出来な
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