讐のようなもの、それからあの柔和な教員の早手廻しに対する見せしめのようなもの、之等が私の恋愛を形成する主要な元素であるとすれば、私はあの改心した美しい処女を、再び闇の底へ引き戻し、「悪の教育」を施している事になるのである。
 何うするのが最良の方法なのか? 私にはもうそれが分らない。唯斯んな恐ろしさが悉く事実であるのを認め得る丈である。
 三度目に女性と密会した時、彼の女は最早何者をも恐怖しない程に変って了って居た。其れに何で無理があろう。彼の女は元から盗みを為し得る程の女性なのだ。
「貴方は、あの初めての晩、私を厭がって、何だか他に約束があるって云いましたね。約束とは何ですか? 云って下さい。貴方はあの教員と何か云い交したんですか?」私は断崖の上に立つ所の亡びかけた森の中へ入ると、彼の女を詰問した。
「許して下さい!」
 矢張りそうであった。彼の女は近い内に、再び小鳥屋へ引き取られ、それから教員と結婚する約束になっていたのである。
「けれどねえ。あの方は私を本統に愛しているんじゃないんですわ。唯私を哀れに思って下さるんです。皆、義侠心から出た事なんですわ。それから、貴方は貴方で……私
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