には堅い約束があるんです。どうぞ、許して下さい、私は貴方のお情けに縋ってお頼み申すのです。あの約束が……」女性は顫えた声で囁いた。
早く話して了う。私は女性の倒れかかる体を腕でささえ、彼の女の顔の上へ、自分の顔を持って行った。羞耻と恐怖のために燃える女性の頬から、カッ気が湯気のように上り、私の頸の両脇へと分れて行った。
何故、女性が私の恋愛を拒まなかったかと云うに、之には二つの理由があるらしい。一つは私が無条件で彼の女の気に入った事である。もう一つは、私が彼の女の罪を許し、又私の悪い謀み――即ち、彼の女の罪を云い掛かりに恋愛を遂げようとした事――を後悔して、改心していると云う話を教員から聞いていたからである。
「改心さえすれば、その人は洗われたように綺麗になる。」と云う思想を彼の女は、自分自身から推し量って、私の上に迄及ぼしたらしく思われる。
斯様にして、私は悪い謀みに依ったならば恐らく却って失敗したかも知れぬ情事に、造作なく成功して了ったのである。之は何事であろう。然も私には純真な恋慕の情と云うものが全く欠けているのではないか! 嫉妬のようなもの、怨嗟のようなもの、漠然とした復
前へ
次へ
全146ページ中122ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
松永 延造 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング