れは、あの女性は誰れが初めに見つけたのだ。え? 返辞をして呉れよ。誰れでも好いから、私に話して呉れよ。私はあんまり強い淋しさに打たれているのだ。」

   崖上の愛

 私の怨敵は何処へ隠れたか?
 斯う叫んで闇の中を見詰める時、何かに悶えて泣き悲しむ院長の息子の幻を透かして、もう一つの他の形が見えて来るのは何故か?
 私は恐れる――強烈な淋しさが擬集して、私の心の中で一つの形を取ると、それがミサ子の羞かみ怯える姿になっているのである。
 私は苦しがって長い釘を柱へ打ち込み乍ら、困った、困ったと云う嗟嘆を繰り返した。
 けれども、結果は何うなって行ったか? もう急いで早く語って了いたい。
 先ず私は我慢が出来なかった。その為めに心を紛乱し、得体のしれぬ憎悪、嫉妬、侮蔑のような感情が荒立つ儘に委された。そして到頭私はミサ子の家の近く迄、悪い霊に誘引されて、足を運んだのである。
 二三夜は無駄に過ぎたが、四日目の闇夜、私は外出する彼の女を堅く捕えた。
 尋常でない畏怖の表情を以て女性は眤と私を見つめ、そして私の眼の中に麻酔薬のようなものを感じて昏倒しかけた。
「いけません! それは、ああ私
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