うな雲が、地面の直ぐ上に迄降りて来て、砂が一本の筒のように上へ吸い上げられ、其処に迷っていた幼児が帯を持ち上げられたように、空中へ飛ぶ様を見なかったか? 或いは大きな塔が割れて、その裂け目から、青と赤との焔が出る所を見なかったか? 或いは、そうだ! 重い馬力車に老いた女が轢き殺されて、貴方の眼前で血を鼻と眼とから流し乍ら、見る間に生から死へと急転する顔面の凄じい色を目撃した覚えはないか?
そんな時の恐怖や驚愕や戦慄に数倍した渦乱のような激動を、私は身体の凡てで感じたのであった。
何と云う凄惨な有様。そして、之が私と密接な関係を結んでいる。それが恐ろしくなくて好いであろうか!
床の上へ落ちている毛の一本さえが、私の爛れた心を針のように刺す。そして、何万本と云う髪の毛が――全く光沢を失って、ミイラのそれのように、べッドから垂れ下っている。私は血が凍り、唇や鼻や眼の球が冷たくなって行くのを感じた。
「ミサ子さん!」私は思い切って絞り出すような声をして彼の女を呼んだ。ああ、実にその時、その瞬間、ミサ子の眼は静かに開かれ、そして私の方へと柔和な視線が流れた。それは見る間に、物凄い絶望の色を
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