いんです。あの子が私に取りついているんです」
「誰、誰の事を云ってるのですか?」
「隣りの子! あの可哀想な子は走る事の出来ないナマコのような畸形児で、両手の指が三本丈しきゃないんですもの。涎や目脂をたらし、アア、アアと丈は云えますけれど、その他の事は何も分らないんです。何時も臥るか柱によりかかるかしていて、私を見ると息を切らせ乍ら這い寄って来るんです。そして、三本丈の指で私をツメるんですわ。」
「其れは夢で見た事のようですね。」
「いいえ、本統なのです。あの骨なしみたいな、癩病みたいな顔の子が、私は初め恐くていやでね、それから、今度は好く見るともう可哀そうに思えましてね。夜いつ迄も眠れないと、その子の事が幻にうかんで、私好くは分らないけれど、その為めに、初めての盗みを思い立ちましたようですわ。小さい泥の人形を私は夜店から取って来て、そして恐ろしいものを捨てるように、隣りの子へ投げつけたんです。けれど、今の私は自分の為めに櫛を盗まねばならぬような心掛けになって了っているのでした。いえあの三本指の子に罪を押しつけようとするのではありませんけれどね、ああ私は自分で自分の考えが分らないのです
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