るようになったのも生来の本能からではないのです。何か無形な怨恨が形の上に表れて来たのに過ぎないと私は解釈しています。さあ! 未来を余り心配しないでね。臆病にならずに、正しい方へと歩き返してください。
 自分の罪や過失を思い出す程つらい事はないけれど、又、之から正しくなろうとする勇気を見出す程晴々したものはありません。
 貴方は悪いお父さんに対抗し、悪くなって行く所を見せつけて、競争し、復讐しようと云うような心持を抱いたんでしょう。いえ、そうハッキリと意識せぬ迄も、矢張り、そんな傾向を取っていたらしいではありませんか。
 卑怯と戦うに卑怯を以ってするならば、善良なものの方が敗北するのは当然です。貴方は敗けました。そしてそれこそ貴方の心の奥にある善良を證して余りあるものと云えましょう」
「何んなに仰言って下さっても、私は盗人より以上のものでも、以下のものでもありません。もう普通の、何の理窟も弁解も入用でない盗人です。私はあの櫛が唯欲しゅう御座いました。そして取って了ったのですもの。ああ、けれど……」
 女性は此処迄語ると、急に驚いたように調子を変え、そして口早に叫んだ。
「ああ、あの子が悪
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