っと技巧を練りなさい。すると絵の具が云う事を聞いて呉れるようになるんだ。ブラッシュへ入れる指先の力の工合で発色が異って来るのだ。』師匠は斯う云って、手を洗うために画室を去りました。独りになった弟子は、いきなり師匠の絵の具箱の所へ飛んで行って、林檎の赤い色を表すために使ったギャランスフォンセと云う絵の具のチューブを握り締めてね、中の絵の具を二寸も押し出して、やり場に困ったものだから、自分の口の中へとナスリつけて了ったんです。
 貴方、分りますか? 之だって立派に盗みの一種です。けれども、此の盗みの原因を考えて同情のある許しを与えると云う事は我々に何れ程必要であるかを知らねばなりません。
 此の弟子の心には先ず第一に嫉妬、それから疑念、それから憎悪、怨恨等が渦を巻いていたのです。そして重に嫉妬が原因となって盗みをして了ったのです。当の絵の具が欲しいのではない、先生と同じ技能が欲しいのに、やはり行為の上に表れて来た事を見ると、絵の具を盗んでいるんです。人間と云うものは無形な事を有形にして表す傾向を持っています。彼は具体的に事を為す性質に災いされているのですね。
 分っています。貴方が盗みをす
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