すからね。今は寧ろ安心するように努め、之から来る幸福をお考えなさい。それが直ぐ来ないでも遠くに見えると云う事は、すでに幸福の一種ではありませんか。きっと、貴方は善くなれます。そんなに貴方の心は美しいのですから。
 盗みと一口に云えば、人々は何んな盗みをも一様に思い取り、其れは悪い事だと、顔を反けますが、人の心が複雑であればある程、盗みの種類も多く、又差等がなければなりません。
 私は斯う云う話を聞きました。一人の有名な画工が、一人の熱心な弟子を持っていましてね、或る時、二人して同一の林檎を写生したのです。すると、師匠の方のは発色が鮮かで、本統の果実のように出来たのに、弟子の方のは色を余り重ねたので、濁って汚くなったのです。それで師匠は一寸軽蔑を以て、弟子の画を批評したんですね。弟子は傲慢な質と見えて、カッと顔を赤くしたそうです。師匠は生意気な弟子を睨めると、『君の絵より、その顔面の朱の方が発色が好いじゃないか?』と申しました。それは本統に同情の欠けた言葉に違いありません。弟子は立ち上って申しました。『先生は何か秘密な高価な絵の具を使うのです。それを私に教えないんです。』
『馬鹿な! も
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