凡な会話が続いた。私は遂に耐え切れないで、再び物干し台の上へ昇って行った。
女が慌てて帰って行ったあと、ラ氏は私を招いて笑い、「魔女を追い払った」方法を私が見ていたかと尋ねた。彼れは私の質疑に答えて、斯《こ》う説明して呉れたのである――
「あの女は昨晩も来た。一昨晩も来た。そして、医師や看護婦の見ていぬ所で、何かしら重要な相談をするため、私に会いたいと要求したのです。私はこの屋上で出会う事を彼の女に許した。彼の女は約束の時間に此処へ上って来た。そして、私の病気が治り次第、彼の女と結婚して呉れと、嘆願するのでした。私はそれを聴き入れなかった。何故なら、彼の女が二十円ばかりの金を至急に借りたいため、私へ結婚の申し込みを敢てするのだという事が、はっきり分っていたからです。二十円? 何うしてそれが大金でないと言えよう。私は一週間後から、施療にして頂く身ではありませんか。
成る程、貴方は私が笛を吹いて後、彼の女へもそれを吹くようにすゝめたのを、不思議がっていらっしゃるけれど、考えて下さい。それは私の病気を恐れている彼の女の心をためすためにも、彼の女を大急ぎで追い払うためにも、是非必要だったの
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