です。」
言葉は簡単で、にべもなかったが、その中には何かしら取りとめのない諦めが含まれているようであった。
彼れが最近何れ程、孤独に安んじ、自ら足る事以外に何物をも求めぬかを私は今更知って驚いた。
五
然しそのような愛情の行き違いから、唯一の女友達をさえ失って了ったラ氏は、時とすると、満足な心の中に、尚お嶮しい寂しさを感ずる事もあるらしかった。
そんな寂しさは彼れの胸中で幾分か変化して、次のような意地悪い行為となって表れた。
一週間後のある夕暮れ、ラ氏を不意に訪れたのは、某教会の日曜学校を監理している三十格好の好青年であった。彼れは最近にその愛妻を失ったとかで、態と質素な服をつけ、ボタンなども取れたものは取れたままに放置して、そんな無造作を楽しんでいる風さえ見えていた。
彼れはいきなり一面識もないラ氏に色々の慰撫的《いぶてき》な言葉をかけた。けれどもラ氏は少しも喜びの色を表面へ現さぬばかりでなく、何を思ってか、「悪魔退治」という印度の脚本の事を語り出した。(この脚本は過日マセドニヤ丸乗組みの印度人達によって、実演された相である。)それから彼れは引き続いて、
「
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