何うするのです? 吹くのは未だ早過ぎます。」
「いや」と、ラ氏は奥深い眼を五六回瞬いて言った。「之はたゞ占いです。」
「笛が……?」
「そうです。今、何時ですか?」
「大時計は九時を打ちました。」
「では、もう過ぎている。」
彼れは私が暫く其処にとゞまって、彼れの為す所を、横合いから観察していて呉れるようにと願い、幾何もなく、一つの珍らしい情景が眼前に表れるだろうと予告するのだった。
十分程もすると、暗い梯子の上り口へ、一つの首が浮上った、首につれて胸、胴全体、そして足の先迄がせり上って来た。
見る見る、その影は軽い足取りで、ラ氏の方へと歩み寄って来た。影というのは、之もアリヤンの若い女性、名は覚えて居ぬが、何でも当時、日本へ渡って来たばかりの、乞食に等しい貧困者であった。それにも拘らず、彼の女の体は薄い白絹に包まれ、彼の女の手首には、恐らく象牙製と思われる腕輪が三つも重なっていて、それらは彼の女が耳なぞを掻くため、腕を持ち上げる度に、快い音響を発しつゝ、打ち合った。
(私は以前にも一度、此の女に会った、その時の記憶によると、彼の女は卵形の輪郭をした顔を持ち、乳へココアを混ぜたよ
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