上もなく後悔した。私は何うかして彼れの愁傷を取り消したいと願いながら、当惑した眼を彼れの枕元へと落した時、半ば広げられた鼡色の風呂敷の中に、不図一枚の絵画と一本の日本風な横笛とを発見した。絵画は稍々《やゝ》原始的な石版刷りで、恐らくインドラという神の図であった。笛は幾らか寸の足りぬ安価相な出来で、その末端に、素人細工《しろうとざいく》らしい赤銅の鎖が付けてあった。
所在なさに、私はその笛を取り上げ、そして、言う事がない為めに、却《かえ》って態と何かしらを口走った――
「早くお治りなさい、この笛を吹いて、楽しめるように……」
言い遅れたが、彼れは誠に巧みな笛吹きで、主に印度の古調を、日本の竹から響き出させる事が出来た。
四
その後、ラ氏の感情は好い諦《あきら》めのために鎮められて、最早、人の前で、涙を見せるような事もなくなった。その替り、何かしら何時も人を冷いものに見ようとする傾向が、彼れの心の底で育ちかけているのも看過《みすご》しがたかった。
悲しい事に、人は多くの場合、二つの極端の間を行き迷うものである。一つは温い感情、一つは冷い理性である。前者は自己の不幸に遭
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