さしつゝ、
「何か話して……」と、嘆願した。
この一語は疑いもなく、彼れの心中の寂寥《せきりょう》を暗示しているものに他ならなかった。私は先ずその一事に心を打たれた。そして全く結果というものを考慮に入れる暇もなく、自然と次の如き意味を、整わぬ英語で口走った。
――病んでいる事は不幸である。然し、健康なものが悉《こと/″\》く幸福であろうか。私は今の先、一人の工夫が余りな生活難のため、発作的に気を取り乱し、丁度其処へ走って来たトラックの車輪の下へ態《わざ》と手を差し込んで、レールを俎《まないた》に、四本の指を断ち切って了ったのを見た。その各々の指からは一尺ずつの高さに血がほとばしった。彼れは、今、病院の外科室で治療を受けている。不幸な者が決して貴兄一人でない事を知ったならば、貴兄は何んなに日毎を気軽く過し得るだろう。何故なら、「不幸」も数多《あまた》集まれば、何かしら強力なものとなるのだから。――
以上の言葉を聞いたラオチャンドは俄《にわ》かに声を隠して泣いた。その事は彼れの病気に大きい支障を来すおそれがあるので、私は慌てて口をつぐみ、あまり斟酌《しんしゃく》なく話し込んだ事を此の
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