ように傷《きずつ》き易く、印象は墨の斑点のように明瞭であった。)
外でもない、友人ラオチャンドは板の間へ一杯に青色のシャツを敷き広げ、その上へ蔽《おお》いかぶさって、二銭銅貨五個分程の血を、丁度シャツの背筋の所へ吐いて居たのである。
彼れは哀訴の心を籠めた眼差しで、私を下から見上げ、次に、鼻孔へ迄も回った血液を口中へと戻すため、鼻をすゝった。
四つ這いになった彼の[#「彼の」は「彼れの」の誤記か]長い身体、白い靴下の穴からのぞく、薄黒い足の裏、血に染って赤くなった大きい門歯、苦痛の涙に濡れた長い睫毛《まつげ》――それら全体は、より所もない孤独の感じで、細かく波打っている如くであった。
三
翌朝は殊に麗《うらゝ》かな晴天であった。
私は廊下に漲《みな》ぎる輝かしい光線の為めに、眼球の表面を刺激された挙句《あげく》、網膜に斑《まだ》らが出来たような不快な感じを抱いて、再びラオチャンドの室へと這入って行った。
彼れの頬はやつれはてて、風で乾いた泥のように、色沢を失い、彼れの眼は空虚の中に尚お何者かを探し求める如き冷い光を見せていた。
と、彼れは私の口を大きい指で指
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