者が出かけて催促したけれど、要領を得なかったのである。その後次第に納額が減少し、三百疋の年もあり五百疋の年もあった。この郷からの収入は三条西家の青女の所得になるので、あまりに少ない時には青女憤慨して受け取らずに突き返そうといきまいたこともあるが、代官の方から守護の配符数通を添えて、公用減少の理由を証明されると、どうすることもできなかった。かくて永正の[#「永正の」は底本では「永の正」]初年には遂に全く無音となり、同三年の春になってようやく前年分、しかも少分のみを納めたに過ぎなかったが、この時になると実隆もいよいよあきらめたと見え、「形のごとしといえども珍重す」と記して喜悦を表している。しかしてその翌年になると安宗左衛門という者が代官に補任され、大永四、五年ころの公用は、五貫三百文というのが定額と認められた。
太田庄の所領もまた全部ではなくして三分の一であったろうと思われることは文亀三年正月二日の条に見えているが、とにかくこの庄からして三条西家に入るべき公用は年千疋であって、しかも他の諸庄に比べ、比較的正確に納付されたらしい。代官としては文明十六年の末に安丸なる者の没落したこと、その後任として太田垣与二なる者望んでこれに補せられたことが見えている。この庄からの収入をも、三条西家ではやはり青女どもの給分に宛てておったのであるが、これを受領するには直接ではなく、建仁寺の塔頭《たっちゅう》大昌院を経由した。故に滞りなく千疋納入になった時には、実隆大悦で、わざわざ大昌院まで出かけ一緡《いちびん》を礼に与えたくらいだ。明応五年に広岡入道道円という者をその代官職に補したところが、その年には恒例の千疋のほかに、補任料をも添えて大昌院経由で送って来たので、実隆はいよいよ喜んだ。享禄二年に土佐狩野の画家に扇十本を描かしめて、これを太田庄に遣わしたというのも多分かく都合のよい荘園であったからだろうと思われる。
山城以西は上述のとおりであるが、以東の美濃・越前にも所領があった。越前の所領というは田野村にあるのであるが、その公用は千疋であったらしく、これも同じく滞納がちで、濃州の所領とともに文明十八年幕府に訴うるところがあったけれど、その効が見えず、ほとんど断念しておったのである。ところが明応元年になって宗祇の取次で千疋を送ってよこしたので、実隆はこれ「天の与えしところというべきものなり」とて大いに悦んだ。永正二年[#「永正二年」は底本では「正二永年」]に納付のあった節も同断である。翌三年にもまた千疋送られた。それといっしょに朝倉の妻からの進物として、美絹一疋をもらったと見えているから、この田野村の公用の納入は主として朝倉の尽力によったものらしい。そこで実隆はさらに一歩を進めて、永正七年の春にはその年の分を前借したらしいが、それにもかかわらずその年末に相変らず千疋到来した。それ故に実隆も「もっとも大いなる幸なり」と日記にしるしてある。
美濃からの収入というは主なるはその国衙《こくが》料であって、これは直接に取り立てるのではなく、美濃の守護土岐氏の手を経由するものである。ただし土岐氏がみずからこれを取り扱うのではなく、その下に雑掌斎藤越後守というが見え、またその下に衣斐某という代官もあったらしい。ところがなかなかにこの国衙が納まらぬので文明十八年にこれを幕府に訴えたこと既述のとおりであるが、その時には有利な裁訴を得たけれど、土岐氏の方からして奉書遵行の請文を出さぬ。そこで例の中沢重種を催促にやった。この催促の使が頻繁に派遣されて、長享三年の春には一か月に三回くらいも出かけている。ただし濃州まで出張したのではなく、ちょうどこのころ近江征伐が再興されて、土岐も将軍の命に応じ江州阪本に出陣していたから、それへ談判に行ったのである。そもそも国衙公用の三条西家に納まらなかったこと、およそ三十年に及んだと、実隆の日記に見えるから、寛正年間からして不知行であったので、応仁の一乱のために無音になったのではない。約言すれば時効にかかるほど久しく放棄した財産なのである。ところが不思議にも催促の効能が見えて、長享三年の三月に三千疋だけ納入になった。実隆の喜悦一方ならず、「小分といえども先ず到来す、天の与えというべきか。千秋万歳祝著祝著」と記している。三千疋を小分というのは、今までの怠納を計算するとかなりの多額になっているからで、一か年の定額は千疋、盆暮に五百疋ずつというのがきまりであったらしい。長享三年の春からして、延徳三年の五月までおよそ二か年間に催促して取り得た総額は、二万疋以上に達し、延徳二年以前の分はこれで勘定がすんだとあるが、おそらくはあまりに古い未進をば、切りすててしまったのかも知れない。前にちょっと述べた通り長享二年からの催促には、ひととおりならぬ手数をつ
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