って来る。端午《たんご》の節句が近づくと、同じく鳥羽庄からして菖蒲の持参に及ぶ。続いて瓜の季節になると御牧から花瓜を持って来るので、その一部を禁裏に進上する例になっている。同じく御牧から八月には茄子を持って来る。九月になると祭礼の神酒一桶を三栖庄から送って来る。十月には自然生芋を御牧からよこす。屋根を葺くための葦は御牧から取り寄せる。また御牧の代官の嘉例の進物茶十袋という定めもあり、同じ御牧から秋には大根百本くらいを納めた。これも幾分を禁裏に献上したのである。なお御牧に在る三ヶ寺からは、正月年頭の礼に何か進上したらしい。のみならずこれら所領の多くは河沼に接しているので、したがいて魚介の利があり、石原庄からは鯉を献上しているが、なかんずく魚の最も多くとれるのが三栖で魚の種類は鱸《すずき》を主とした。百姓の多数は半農半漁であって、その代替りの礼などにはこの鱸持参でやって来る。
三条西家はこれらの物を収得するばかりでなく、当時荘園一般の例として、その所領から人夫を徴発した。人夫を出すのは主として御牧で、あるいは庭の草の掃除のため、あるいは屋根葺のため、あるいはその他の普請のために呼寄せられている。また三条西家自分用のためのみならず、荘園の主として幕府から人夫を課せらるることもあった。たとえば義政の東山の普請につき、文明十七年春厳重な沙汰を受け、西園寺家と相談のうえ百十人の人夫を出したごときはその一端である。
かく述べたてると山城国から得られる三条西家の収入は極めて多端であるように見えるが、実隆の晩年大永七年ごろになると、御牧のみの未進が十二貫文の多きに至っているから、他もこれに準じて未進が多かったろうと思われる。山城に在る分すら右のとおりであるとすれば、ましてそれよりも遠い国々にある所領からは、満足に年貢の納まろうはずがない。次には実隆がいかなる苦心をして遠国からこれを取り立てたかを叙述しよう。
山城国以外で京都に近い三条西家の荘園を算《かぞ》うれば、先ず丹波に今林の庄というがあった。本来どれほどの収入があったのか知れぬが、文明九年には十石の分を竜安寺に寄進したとある。おそらくは爾後三条西家へは、ほとんど年貢米の納入がなかったのではあるまいか。日記永正七年十月の条に「年貢米二石初めて運送の祝著極まりなく千秋万歳自愛自愛」とあって、思いがけなかった仕合わせのように記している。しかして同年内になお二駄の年貢米がまた今林庄から納付になっているからして、三石六斗の合計になり、かなりの収入となったのである。なお丹波にはこの今林庄のほかに桐野河内という所から莚の年貢があり、土著の代官として、明応四年に片山五郎左衛門、同六年に月山加賀守という者が見えている。これらの代官は主として苧《からむし》の公事《くじ》のために置いてあるので、莚の方は実は第二だ。この地方から秋になると柿や松茸などを鬚籠に入れて送って来たことが日記に見える。
遠近の丹波と相|若《し》くのは、摂津富松庄である。富松は河辺郡と武庫郡とに分れて、東西富松の二つある。しかして富松庄は三条西家の専領ではなく、むしろ西園寺家の所領というべきもので、三条西家はわずかにその三分一をのみ取得としておったことが日記の永正三年四月の条に見え、西園寺家でこの荘園を沽却《こきゃく》しようとするから、その三分一の権利を三条西家に保留してあることを奉書の中に記入してもらいたいと、幕府へ申し入れた記事がある。して見ると東西に分けて分領したのではなく、富松庄の表向きの領主は、西園寺家だけであったろう。しかしこの庄の代官としては、日記文明十八年と延徳二年の条とに、富田某という名があらわれて、その註に「細河被官人薬師寺備後の寄子《よりこ》」とある。この代官が延徳元年に上洛した時には、柳二荷、鴈《がん》、干鯛、黒塩三十桶、刀一腰(助包)持参に及んだから、実隆はこれに対面し、かつその返礼として、以前義尚将軍から鉤りの里で拝領した太刀一腰を遣わしたとある。丹瓜がこの富松の名物と見え代官からこれを進上しているし、それのみではなく正月の若菜および盆供公事物を送って来る例になっておった。年貢米がどれだけあったかは判明しない。
摂津の先きの播磨《はりま》の飾磨《しかま》郡にある穴無庄、同じく揖保郡にある太田庄、また共に三条西家の所領であった。穴無の郷の公用というのは、その公文職の年貢なので、年一千疋が定額であったらしい。守護不入の地とはいうものの、延徳ごろの代官たる中村弥四郎のごとき、守護赤松の被官人であって見れば、陣夫銭その他の課役を納めぬわけにも行かず、故に三条西家からしきりに催促されても、半分くらいはこれを翌年廻しにする。現に延徳三年十一月のごときは、右の中村が赤松に催されて、坂本の陣中に在り、そこへ三条西家の使
前へ
次へ
全36ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
原 勝郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング