くしたもので、義尚将軍薨去につき土岐右京太夫が斎藤越後守を従えて四月入洛し、土岐は芬陀利花院《ふんだりげいん》に、斎藤越後守は東福寺に宿営すると、早速にまたたびたび催促の使者を差し向けた。延徳二年の秋には葉室家が義植将軍に昵近《じっきん》なのを利用し、葉室家に頼んで土岐への御奉書を出してもらった。翌年の秋に土岐がまた坂本の陣に戻ると、さらにそれへ使者を出した。葉室家からの手紙をも添えてやったこともある。しかして一方においてかく矢の催促をしたのみでなく、同時に種々と土岐や斎藤の機嫌をとった。三栖庄からして巨口細鱗の鱸がとれたとて進献になると、先ずその一尾を東福寺の斎藤のもとにやった。富松庄の代官が土産を持って来ると、すぐにその一部を土岐への音物《いんもつ》にした。斎藤にも柳樽《やなぎだる》に瓦器盛りの肴を添えて送ることもある。雉《きじ》に葱《ねぎ》を添えてやったこともある。鴈《がん》をやったこともある。太刀一腰の進物のこともあった。かかる関係からして延徳三年の二月末に、土岐が三条西家を尋ねたが、その時には主人の実隆が在宅であったけれど、折悪しく取次をすべき青侍がみな他行中であったので、土岐は来訪の旨を玄関でいい入れたまま、面会を得ずして帰ってしまった。美濃の土岐といえば、日本中に聞えた武家であるのに、実隆は取次の人がないというので、これに玄関払いを食わした。そのところちょっと当時の公卿が武家に対する態度が伺われる。しかしながら実隆ももちろん土岐を怒らすことをば好まなかったので、翌日すぐに使者を斎藤のもとへやって前日の土岐来訪の礼を述べ申しわけをした。そこで土岐も阪本に移ってから、三条西家に対しては疎略を存ぜぬ旨をいってよこしてある。
 かくのごとくして国衙の徴収を成し遂げたので、その収入によりて、延徳元年の拝賀の費用をも弁じ、亡父公保の月忌、例会は都合あしく無沙汰にしたことも多くあったのに、この年はこれを執行し、また大工二人を呼んで家屋の小修繕をもやれば、旧借をも少々返却し、中沢や老官女以下の男女の召使の給金をも下渡し得たのである。しかしながら一年平均一万疋といえば、当時において少なからぬ大金である。それだけの大金を催促と少しばかりの音物とだけで、しかも三十年間不知行の後に、徴収し得たとは考えられない。実は別にもっと有効な方法を講じたのである。それはほかでもない、前回にもちょっと述べた武人に利益分配することである。長享三年二月久しぶりで三千疋を受領した条に、南昌庵という者が坂本の扇屋で、これを斎藤から受け取ったが、「この儀については重々子細等あり、記すこと能わず」としてある。延徳二年七月の条には、「斎藤越後契約の間事いささかこれをつかわす」とあって、そのとき受け取った千六百疋の中から、何ほどかを与えている。これらの記事によって斎藤と三条西家との関係を伺い知ることができるので、かかる消息が通っておればこそ、斎藤越後守も時によっては、立替えをもなし、また用脚が到着するとわざわざ使者をもって受取人派遣の督促をなし、あるいはわざわざ太刀金二百疋の折紙持参でやって来て、実隆に謁することもあったのである。しかるに明応五年美濃の喜田城陥落し、土岐九郎は切腹、左京太夫は没落したので、この国衙料もまた不知行となること三十年ばかり、大永四年に至り持明院の周旋によりて、また納入さるることになった。
 美濃国からは、国衙公用のほかに、なお三条西家の収入があった。一に宝田寺役、これはだいたい西園寺家のもので、三分の一だけ実隆の方に入ったのである。第二は鷲巣の綿の年貢である。第三は苧《からむし》の関務である。この収入はもっぱら官女の給分等に充てたものらしく、年貢については文亀三年に三百疋の収入があったことを記しているのみで、定額がわからない。この苧の関務をばやはり斎藤氏の一族が取り扱っておったものと見えるが、美濃、坂本、京都の間をしばしば上下する金松四郎兵衛という者もまた周旋の労をとっておった。土岐の明応五年の没落を報じて来たのもまたこの男である。
 以上のほか三条西家の所領としては尾張に福永保があると記してあるけれど、つまびらかなことは知れない。また近江の阪田郡加田庄、これはもと正親町三条家のもので、転じて実隆の領有に帰したのであるが、岩山美濃守政秀なるもの半済を掠《かす》め取ったので、これに交渉を重ねたことが見える。年貢としては明応五年に飯米三俵の収入があったほかに何もわからぬ。
 最後に三条西家の収入として叙せねばならぬことは、苧の課役の一件である。三条西家が美濃の苧の関務を領し、丹波の苧代官とも関係があり、阪本からも苧の課役が運ばれ、また天王寺の苧商人からも収得するところあった。して見ると二条家と殿下渡領とでもって、菅笠の座からの運上を壟断《ろうだ
前へ 次へ
全36ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
原 勝郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング