]の最も甚しきものならむ。一千有餘年以前よりして科擧の制を行へる支那に、請託牽引の跡を絶たず、無能菲才の屡重用せられしを以て、直に科擧の效能の微小なるが爲めなりと論ずるは、これ試驗なる者の效果を過大視するより來る僻論なり。輓近文明諸國は率ね其文武官の任用に際し試驗を行へども、其登庸昇進必ず能否に比例し、全く怨嗟の聲を絶つに至れるもの、蓋し求め得難し。曷んぞ獨り科擧の制を行へる支那をのみ責むべけんや。科擧に採るべき點は、其原則に存し、官吏の任用に公平を以て第一義となし、最も自由競爭を尚べるに在り。歐米諸國に在りて所謂舊套時代に屬する十八世紀は論ずるを須ゐず、下りて十九世紀に入りても、其前半には試驗任用の制未だ行はれず。歐洲諸國中の先進にして、且つ最も民主的なりと稱せらるゝ英國に在りてすら、自由競爭を原則とせる文官試驗制度の一般に採用せらるゝに至りしは、一八七〇年以後のことにして、武官の任用に至りても久しく買官制を行ひ以て一八七一年に至りたりき。當時買官制廢止論に反對せる者の説に曰く、試驗任用法なるものは、之によりて以て多少の公平を期し得べきも、公平なる美名の下に不世出の偉材をして屡櫪間[
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