真理の開拓者であり、進歩の使徒であり、極度に無慾純潔、少しも驕慢、自負、自家宣伝等の臭味がなかった。それでこそ、あれほどの仕事ができたのである。若《も》し彼等にして一片の利己心があったなら、そは必ず彼等の成功の心臓部を喰い破ったであろう。
 われ等が求むる所は、右にのぶるが如き人物である。慈悲心にとみ、熱情にとみ、自己を忘れて真理を求め、神業一つを睨みつめて、現世的欲求を棄てて顧みない人物がほしいのである。そんな人格が暁天《ぎょうてん》の星の如く稀であるべきは、元よりいうまでもない。それ丈けそう言った人格は尊い[#「尊い」は底本では「尊 い」]。友よ、落ついた、熱心な、そして誠実な哲学者の心を以《もっ》て心とせよ。又慈悲深く、寛厚《かんこう》にして、常に救いの手をさしのべんとする、仁者の心を以《もっ》て心とせよ。更に又為すべき事を為して、報酬を求めざる神の僕《しもべ》の克己心をこれに加えよ。かかる人格にして初めて、気高く、聖《きよ》く、美しき仕事ができる。われ等としても、最大の注意を以《もっ》て之《これ》を監視し、又警護する。同時に神の直属の天使達も、亦《また》常に温顔を以《もっ》て之《これ》を迎え、露あやまちのないように、特別の保護を与えるであろう。
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問『そう言った人格は、到底現代に求め難いと思うが……』
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 万事は忍耐[#「万事は忍耐」に白丸傍点]――それは少ない、極めて少ない。よしあっても、ただその萌芽に過ぎない。われ等とても、決して人間に向って完全を求めはせぬ。われ等の求むる所は、ただ誠意あるもの、向上心に富めるもの、自由な、吸収力にとめるもの、純潔にして善良なるものである。人間としてあせる心が何よりも悪い。静かに忍耐の心の緒を引緊めることが肝要である。取越苦労と、心配とは絶対に禁物である。できない事は到底できない。思案にあまる事柄は、すべてわれ等に任せ、思いを鎮めて、よくわれ等の述ぶるところを味ってもらいたい。
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(評釈) いささか冗長のきらいはあるが、大体すぐれたる霊界居住者が、人間に対して何を求めるかは、これでほぼ見当がつく。が、顧みて何人か自己の資格の不充分、不完全を歎息せぬものがあるであろうか。これにつけてもわれ等は、かの活神、活仏気取りの浅墓な心懸の人々には、つくづく長大息を禁じ得ぬ。本人も本人だが、その存在を許す周囲の人達も人達である。日本民族が精神文化の先頭に立ちて、世界を率いる資格の備わるのは、そも何《いず》れの日であろう!
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      第五章 幽明交通と環境

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問『霊媒ホームの実験が、たまたまダアビイ競馬日に際会し、終に実験不能に終ったとの事であるが、かかるお祭騒ぎは幽明交通に有害か?』
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 悪霊の跳躍[#「悪霊の跳躍」に白丸傍点]――ダアビイ競馬日の如き場合には、人間の道徳的均衡が撹乱されているので、われ等として、地上との交通に至難を感ずる。かかる場合に、ほくそ笑むのは、低級未発達の悪霊どもである。かの投機的慾望によりて刺戟されたる無数の民衆こそは、同じ慾望に燃えている下級霊にとりて、正に誂向きの好餌である。一部の人間共は、飲酒の為めに、前後不覚の昂奮状態に陥って居る。他の一部は一攫《いっかく》万金を夢みて、熱病患者の如く狂いまわって居る。他の一部は一切の資産を失って、絶望のドン底に呻いている。斯《こ》んなのはちょっとした暗示、ちょっとした誘惑にも容易に動かされる。よしそうした劣情が、実際的に惹起《じゃっき》されるまでに至らなくとも、兎に角人々の道徳的均衡が覆されて居るのは、甚《はなは》だ危険である。平静と沈着とは、悪魔を防ぐ為めの大切な楯で、一たんそれに隙間ができれば、未発達な悪霊どもが、洪水の如くそこから浸入する虞《おそれ》がある。
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問『然《しか》らば国家の大祭日、国民的記念日等も有害か?』
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 祭日の悪用[#「祭日の悪用」に白丸傍点]――必ずしも有害とは言わぬ。すべては祭日に処する人間の態度如何にかかる。羽目を外した昂奮、則を越えた置酒高会《ちしゅこうかい》、動物的な慾情の満足――人間がこれに走れば、勿論《もちろん》祭日は有害である。しかしこれは祭日や、記念日が悪いのではなくて、これに臨む人間の用意に欠くる所があるのである。若《も》しも人々が国家の大祭日に当りて、肉体の休養と精神の慰安とに心を用いるなら、凡そ天下にそれほどよきものはないのであろう。過度の労役の為めに消耗せる体力が、心地よき安静によりて完全に本復せる時、はげしき
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