れて啓示はないのである。
 思え、啓示を漏らすべき道具は、いつも一人の人間である。かるが故に霊媒の思想霊媒の意見の多少混らぬ啓示は、絶対にあり得ない。何となれば、霊界の住人は、霊媒の心の中に見出さるる材料を運用するより外に、通信の途がないからである。無論できる限り、それ等の材料に補修改造を施し、且《か》つ真理に対する新見解を、これに注入すべく全力を挙げる。が、何と言っても既製品を使用するのであるから、必ずしも思う壺にはまらぬことがある。大体に於《おい》て霊界通信は、霊媒の心が受身になって居れば居るほど、又周囲の状態が良好であればあるほど、純潔性を保つことができるのである。試みにバイブルを繙《ひもと》いて見るがよい。必ずしも平均した出来栄でない。或《ある》部分には霊媒の個性の匂いがついて居る。或《あ》る部分は憑《かか》り方が不完全であった為めに、誤謬《ごびゅう》が混入して居る。或《あ》る部分には霊媒自身の意見が加味されている。就中《なかんずく》どの啓示にも、その時代の要求にあてはまる一種の特色があり、そのまま之《これ》を他の時代に適用することはできないのである。
 その然《しか》る所以《
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