る魂と魂とは、空間的にはいかに離れていても、実際に於《おい》ては、極めて親密に結合しているのである。われ等には時間もなければ、又空間もない。無論真の理想的の一致というのは、両者の智能までも、全然同一水平線上にある場合であるが、実際問題とすれば、それは殆《ほとん》ど不可能に近い。魂と魂とが愛情の絆《きずな》で結ばれて居れば、それで立派な夫婦であり、智能的には、必ずしも同一程度であるを要しない。愛はいかなる距離をも結合する力がある。それは幼稚不完全なる地上生活に於《おい》てすら然《しか》りである。二人の兄弟が、相互の間を幾千万里の海洋によりて隔てられ、幾年幾十年に亘《わた》りて、ただの一度も会見の機会なく、しかもその業務がすっかり相違しているにも係らず、彼等の間には、立派に愛情が存在し得るではないか。夫婦となれば、その心情は一層不思議で、日頃自分を呵責《さいな》むばかり、優《やさ》しい言葉一つかけてくれぬ自堕落の亭主を、心から愛する世話女房が、あちこちに発見される。
無論死は直ちに彼女を奴隷的苦境から解放する。彼女の方では上昇し、之《これ》に反して良人の方では下降する。が、愛の絆はこれが
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