達を阻止する。幸福は常に進歩の中に見出され、進歩につれて神に近づき、完全に近づいて行く。魂は決して安逸《あんいつ》懶惰《らんだ》を願わない。魂は永遠に知識の前進に対する欲求を棄てない。人間的慾情、人間的願望は肉体と共に失せるが、魂には純情と進歩と愛との伴える、浄き、美しき生活が続く。それがまことの天国なのである。
われ等は魂の内に存在する地獄以外の地獄を知らない。この地獄は不潔な劣情の焔《ほのお》によりて養われ、悔と悲の烟《けむり》によりて培《つちか》われ、過去の悪業に伴える、もろもろの重荷が充ちみちている。この地獄から脱出すべき唯一の途は、ただ踵《きびす》をかえして正道に戻り、正しき神の教に基きて、よき生活を営むことである。
無論死後の世界にも刑罰はある。されどそは、怒れる神の振り降ろす懲戒の笞《しもと》ではない。恥を忍び、苦痛を忍びて、自から積みあぐる善行の徳によりてのみ、償うことのできる自然の制裁である。御慈悲を願う卑劣な叫びや、オロオロ声を絞りての、偽懺悔《にせざんげ》などによって償うべくもないのである。
真の幸福を掴もうと思わば、道に協い、我慾から離れたる生活を、ただ一筋に儼守《げんしゅ》するのみである。幸福は合理的生活の所産であり、これと同様に、不幸は有形無形に亘る一切の法則の意識的違反から発生する。
われ等の遠き前途に就《つ》きては、われ等は何事も語るまい。何となれば、われ等も亦《また》それに就《つ》きて、何等知るところがないからである。が、われ等の現在に就《つ》きていえばそは諸子の送る地上の生活と同じく、不可犯の法則によりて支配され、幸不幸は、ただその法則を遵守するか否かによりて決せらるるのである。
われ等は今ここで、われ等の唱道する教義に就《つ》きて細説はせぬであろう。神に対し同胞に対し、又自己に対して守るべき人間の責務につきては、諸子もほぼ心得ているのである。他日諸子はこれに就《つ》き、更により多くを知るであろう。現在としては既成宗教のドグマと、われ等の教義との間に、いかに多大の径庭《けいてい》があるかを明かにしたのを以《もっ》て満足するとしょう。
諸子はわれ等の主張が、既成宗教の教条に比して、遥かに不定形、遥かに不透明であると思うであろう。が、われ等は、決して彼等の顰《ひそみ》に倣《なら》って実行不能、真偽不明の煩瑣《はんさ》極まる法則などは述べようとはせぬ。われ等の期するところは、より清く高き空気を呼吸し、より浄く、聖なる宗教を鼓吹し、より純なる神の観念を伝えることである。要するにわれ等は、飽まで不可知を不可知とし、苟且《かりそめ》にも憶測を以《もっ》て知識にかえたり、人間的妄想を以《もっ》て、絶対神を包んだりしないのである。われ等の歩まんとする道は、臆測よりは寧《むし》ろ実行、信仰よりは寧《むし》ろ実験である。われ等はこれが智慧により、神によりて導かるるところの、正しき道であると信ずる。思うに我等の教は懐疑者によりて冷視せられ、無智者によりて罵られ、又頑冥者流によりて異端視されるであろう。しかし乍《なが》ら真の求道者は、われ等の教によりて手がかりを獲、真の信仰者はわれ等の教によりて幸福と、進歩との鍵を掴み、そして縦令《たとえ》千歳の後に至るとも、この教の覆ることは絶対にないと信ずる。何となればわれ等の教は、飽くまでも合理的の推理と、合法的の試験とに堪《た》えるからである。
[#ここから2字下げ]
(評釈) 神霊主義の真髄は、ほぼ遺憾《いかん》なくここに尽されている。現世と死後の世界がつながりであること、両者が飽までも大自然の法則の支配下にあること、『神』は最高最奥の理想的存在であって、神律の実際の行使者は、多くの天使達であること、幸と不幸との岐れ目は、有形無形の自然律を守るか、守らぬかによりて決すること、神霊主義は正しき推理と、正しき実験との所産であるから、永遠に滅びないこと――それ等の重要事項が、なかなか良く説かれて居る。今後人類の指導原理――少くとも具眼有識者の指導原理は、これ以外にある筈がないであろう。
就中《なかんずく》私がここで敬服措かないのは、『天使』につきての大胆率直なる啓示である。無限絶対の『神』又は『仏』のみを説きて、神意の行使者たる天使の存在を説かない教は、殆《ほとん》ど半身不随症に罹《かか》って居る。無論ここにいう天使は、西洋式の表現法を用いたまでで、日本式でいえば八百万の神々である。くれぐれも読者が名称などに捕えられず、活眼を開いて、この貴重なる一章を味読されんことを切望する。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]
第十一章 審神の要訣
[#ここから2字下げ、折り返して3字下げ]
問『あなた方の所説は、甚《はなは》だ合理的とは考えられるが、千八
前へ
次へ
全26ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
浅野 和三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング