も一致していないのである。加之《しかのみならず》バイブルの中には、人間的|誤謬《ごびゅう》の夾雑物《きょうざつぶつ》が少くない。これは霊媒という一の通信機関を使用する、必然の結果である。真理は全体の流れの中に見出すべきで、一字一句の末に捕えらるれば、到底真理を掴むことはできない。全体と交渉なき局部的の意見は、筆者の思想を窺うのには役立つが、われ等の信仰問題とは没交捗である。二千年、三千年の昔に於《おい》て述べられた言説が、永遠に威力を有するものと思うは、愚も亦《また》甚《はなは》だしい。そうした言説は、それ自身の中にも矛盾があり、又同一書冊の中に収められた、他の言説とも相衝突している。大体に於《おい》て言うと、バイブル編成時代の筆者達は、イエスを以《もっ》て神の独子と思考し、このドグマを否定するものを異端者と見做した。同時に又それ等の人達は、あまり遠くない将来に於《おい》て、イエスが雲に乗りて地上に再臨し、地上の人類の審判に参与するのだと信じて居た。無論これ等《ら》が皆迷信であることは言うまでもない。イエスの死後、すでに千八百年以上に及べど、今|以《もっ》てイエスは地上に再臨しない。よほど活眼を以《もっ》てバイブルに対しないと、弊害が多い所以《ゆえん》である……。
で、われ等がこの際諸子に注意を促したいことは、諸子が神の啓示を判断するに当りては、須《すべか》らく自分自身に備われる智慧と知識との光に依《たよ》り、断じて経典学者の指示に依《たよ》ってはならないことである。啓示全体に漲《みなぎ》る所の精神を汲むのはよいが、一字一句の未節に拘泥することは、間違の基である。従ってわれ等の教訓を批判するに当りても、それが果して或《あ》る特殊の時代に、或《あ》る特殊の人物によりて述べられたる教訓と一々符合するか否かの穿鑿《せんさく》は無用である。われ等の教訓が、果して諸子の精神的欲求に適合するか、否か、それが果して諸子の心境の開拓に寄与する所あるか、否かによって去就を決すればよいのである。
換言すれば、われ等の教訓が、正しき理性の判断に堪《た》えるか? 精神《こころ》の糧《かて》として何《ど》れ丈の価値を有するか?――われ等の教訓の存在理由は、これを以《もっ》て決定すべきである。
正規の教会で教うるように、諸子に臣従を強うるところの神は、果して諸子の崇拝の対象たるに足りるか? その神は、自己の独子の犠牲によりて、初めてその怒りを解き、お気に入りの少数者のみを天国に導き入れて、未来永劫、自己に対する讃美歌を唄わせて、満足の意を表している神ではないか! そしてその他の人類には、天国入りの許可証を与えず、悉《ことごと》くこれを地獄に追いやりて、言語に絶した苦痛を、永久に嘗めさせているというではないか。
教会は教える。神の信仰に入りさえすれば、いかなる堕落漢たりとも、立所にその罪を許されて天国に入り、神の御前に奉侍《ほうじ》することができると。若《も》しもそれが果して事実なりとせば、天国という所は、高潔無比の善人と、極悪無道の悪人とが、互に膝を交えて雑居生活を営む、不思議千万な場所ではないか?
われ等の教うる神は、断じてそんなものではない。道理が戦慄《みぶるい》して逃げ出し、人情が呆れて顔を反《そむ》けるような、そんな奇怪な神の存在をわれ等は知らない。それは人間の迷信が造り上げた神で、実際には存在しない。しかもかかる神を空想した人物は、よほどの堕落漢、よほどの野蛮人、よほどの迷妄漢であったに相違ない。人類として信仰の革命が、急を要する所以《ゆえん》である。
われ等が知る所の神、愛の神は断じてそんなものではない。その愛は無限、しかもすべてに対して一視同仁《いっしどうじん》である所の、正義の神である。そして神と人との中間には、多くの守護の天使達が存在し、それ等が神の限りなき愛、神の遠大なる意志の直接の行使者となるのである。此等《これら》の行使者があるから、そこに一分一厘の誤差も生じないのである。神は一切の中心であっても、決して直接の行動者ではないのである。
思え! 永遠の魂の所有者たる諸子は、不可解、不合理なる教義の盲目的信仰と、ただ一片の懺悔の言葉とによりて、単調無味なる天国とやらの権利を買い占めるのであろうか? 否々、諸子はただしばし肉の被物《ころも》に包まれて、より進歩せる霊的生活に対する準備を為すべく、地上に現れたる魂なのである。かるが故に、現世に於《おい》て蒔かれたる種子は、やがて成熟して、次の世界の収穫となる。単調無味な、夢のような天国が、前途に諸子を待っているようなことは断じてない。永遠の向上、永遠の進歩、これが死後の世界の実相である。
従って各自の行動を支配するものは、不可犯の法則である。善行は魂の進歩を助け悪行は魂の発
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