主とし、神の子とし、又罪の贖者とするが、それは人間的解釈で、かの古代ヘブライ人の刻める犢《こうし》の像と、何の相違もない。しかし乍《なが》ら、キリストがまことの道の為めに自己の生命を棄て、家族を棄て、地上の快楽を棄てて顧みなかった、克己的犠牲行為は、どれ丈人の子を罪より救い、どれ丈人の子を、一歩神に近づかしめたか知れない。その意味に於《おい》て彼を一の贖罪者と言おうとするなら、われ等も欣《よろこ》んでこれに左袒《さたん》する……。
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(評釈) 主としてキリスト教を中心としての言説であるが、無論これは仏教にも、神道にも、又儒教、道教等にも、悉《ことごと》くあてはまると思う。啓示と霊媒、又啓示と時代との関係を説きて直裁簡明、正に絶好の指針とするに足りる。『インスピレーションは神から来る。しかし霊媒は人間である』――これを忘れた時に、当然その人は経典病患者になる。
 一宗一派の発生につきて説く所も甚《はなは》だ深刻である。これを一読して現在の日本を観る時に、われ等は憮然として、長太息を禁じ得ないものがある。
 最後に霊媒使用につきて霊達の苦心談、――これも正しく心霊学徒に取りて好参考資料であることは、改めて贅説《ぜいせつ》を要しないであろう。
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      第十章 進歩的啓示

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問『あなた方の啓示は、却って民衆の心から信仰を奪う結果になりはせぬか……。』
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 新啓示と一般民衆[#「新啓示と一般民衆」に白丸傍点]――汝の疑惑の存するところはよく判る。われ等はこれから右に就《つ》きて、十二分に所見を述べようと思う。われ等はわれ等の使命の、神聖なることを信じて疑わぬ。時運さえ熟せば、天下の民衆は、必ずわれ等の指示に従うに相違ないのであるが、それまでには、民衆に対して多大の準備教育を必要とする。現在に於《おい》てわれ等の提唱する所を受け容れることのできるのは、ホンの少数の先覚者――つまり一般民衆の先達として、指導者の位置に就くべき、少数の先駆者のみに限られる。一体いずれの時代、いずれの国土に於《おい》ても、これに例外はない。旧知識に満足して居る無智の大衆は、必ず新知識に向って、反抗の声を揚げるのが常則となって居る。かのイエスとても同様の憂目を嘗めた。寄木細工式の繁瑣な神学を捏《でっ》ち上げた人達、朝に一条を加え、夕に一項を添えて、最後に一片の死屍にも似たる、虚礼虚儀の凝塊《かたまり》を造り上げた人達――それ等はイエスを冒涜者と見做し、神を傷け、神の掟《おきて》を破る大罪人であると罵った。かくて最後に、イエスを十字架に送ったのである。
 今日では何人も、イエスを神を涜《けが》す罪人とは考えない。彼こそは、実に外面的の冷かなる虚礼虚儀を排して、その代りに、陽《ひ》の光の如く暖かなる内面的の愛を、人の心に注ぎ込んだのである。が、当時の当路者達は、イエスを以《もっ》て、漫《みだ》りに新信仰を鼓吹して旧信教を覆すものとなし、之《これ》を磔刑に処したのである!
 イエスの徒弟の時代に至りても、一般民衆は、尚お未だイエスの真の啓示を受け容るる丈の心の準備がなく、徒弟達に対する迫害は、間断なく繰り返され、ありとあらゆる讒罵《ざんば》の雨が、彼等の上に降り濺《そそ》いだ。曰くイエスの徒弟どもは、極端に放縦《ほうじゅう》無規律なるしれもの[#「しれもの」に傍点]である。曰く彼等は、赤児を殺し食膳に上せる鬼どもである。今日から顧れば、殆ど正気の沙汰とは受取れぬような悪声が、彼等の上に放たれたのであった。が、これは独り当時に限られたことではない。現在われ等霊界の使徒に対して向けられる世人の疑惑、当局の圧迫とても、ほぼこれに等しきものがある。
 但《ただ》しかくの如きは、人文史上の常套的事象であるから、あきらめねばならぬ。新らしい真理に対する迫害は、宗教と言わず、科学と言わず、人類の取扱う、いかなる原野に於《おい》ても、例外なしに行われるのである。これは人智の未発達から発生する、必然的帰結であるから致方がない。耳馴れたものほど俗受けがする。之に反して耳馴れぬもの、眼馴れぬものは頭から疑われる。
 で、われ等の仕事が、前途幾多の荊棘《けいきょく》に阻まれるべきは、元より覚悟の前であらねばならぬ。われ等の啓示は往々にして、未開なる古代人の心を通じて漏らされた啓示と一致せぬ箇所がある。これは使用する器の相違が然《しか》らしむるところであるから、如何ともする事はできない。
 言うまでもなくバイブルは、幾代かに亘《わた》りて受取られたる啓示の集録である。かるが故に神につきての観念は、人智の進歩に連れて次第に変化し、枝葉の点に於《おい》ては、必ずし
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