Ein Zwei Drei
堀辰雄

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【テキスト中に現れる記号について】

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#二の字点、1−2−22]
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 本輯に「栗鼠娘」を書いてゐる野村英夫は、僕の「雉子日記」などに屡※[#二の字点、1−2−22]出てくる往年の野村少年である。冬になるとよく病氣をしてゐたが、そのころはいかにも牧童なんぞになつたら似合ひさうな少年で、死んだ立原道造なども弟のやうにかはいがつてゐたものだ。が、この少年、おとなしさうに見えて、なかなかの強情つぱりで、それには立原もよく手こずり、「このごろ野村君は、堀さんのいふことなら何んでもきくが、僕のいふことなんぞきいてくれなくなつた」と、さも不平さうにしてゐた。
 いつまでももう野村少年でもあるまいが、――その野村はいつかフランシス・ジャムの詩を譯したり、自分でも詩を書いたりするやうになつた。さうしてこんどはこんな小説まがひのものまで書いた。野村はいまでも鷄小屋を繕つたり、庭の椅子をつくつ
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