たりすることが好きらしい。なかなか器用なことをやるな、とおもつて感心してゐると、ときどきとんちんかんなことをしてゐる。こんど彼がはじめて書いたこの小説まがひのものも、どこかそんな野村式のところがある。まあ、しやれていへば、稚拙な味とでもいつたものか。この作品をもうすこし小説らしいものにしようと思へば、前半では森のなかで娘が栗鼠などと遊ぶところをもうすこしファンタスチックに描き、又、後半では母娘三人の田舍暮らしにもうすこし日本の田舍らしい佗びしい感じを添へればいいのだ。だが、こんな風に、なんの屈託もなく、すうつと書けてしまつたやうな最初の作品は、あんまりいぢくらせたくないので、書き直させたりなんかするのは止めにした。
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「死の影の下に」を書いてゐる中村眞一郎は、野村がジャケット姿で鷄小屋や椅子などをつくつてゐる間、いつもヴェランダの籐椅子の上でフランスやドイツの本ばかり讀んでゐるやうな男だ。この冬もずつと僕の隣り村で暮らしてゐて、ときどき遊びにくるが、そのときはいつもその一里ばかりの道をリュックを背負つてフランスの小説など讀みながらぶらぶらやつて來る。それくらゐ
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