じめてゐるやうだが、まだなかなか完成しなささうだ。しかし、その間に、こんどの樣な短篇もときどき書いてゆくつもりなのだらう。こんどの原稿は、片山敏彦君のはうに先きに※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つてゐて、僕は編輯まぎはにちよつと拾ひ讀みしたきりなので、いまは何んにもいへない。が、そのときの印象では、この短篇の話を中村からきいて、何んとなくジュリアン・グリイン風の、こんぐらかつた暗い幻想的なものを想像してゐたが、おもひのほか明るく整頓された、繪畫的な美しさがまつ先きに感ぜられた。たぶん福永のつもりでは、もつと暗い人生の本質のやうなもの――「塔」のなかに閉ぢこめられた人間の孤獨な、いはば實存哲學的なすがたを、描いて見たかつたのだらうが……
この輯ができたら、もう一ぺんゆつくり讀なほして見よう。かういふ作品はちよつと拾ひ讀みしただけではよく分からないから。
底本:「堀辰雄作品集第四卷」筑摩書房
1982(昭和57)年8月30日初版第1刷発行
初出:「高原 第一輯」鳳文書林
1946(昭和21)年8月20日
入力:tatsuki
校正:染川隆俊
2010年3月5日作成
青空文庫作成ファイル:
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