ニいう男と結婚した。が、それから一年立つか立たぬうちに、マリニャンの戦いが起り、その夫はそれにはかなく戦死してしまった。若い寡婦《かふ》になったイザベルは再びミュゾットの館に引き取られた。やがてそのうちに彼女の前に二人の求婚者が現われた。そしてその二人は決闘して、お互いに刺し合って二人とも死んでしまった。その夫の戦死には耐えることの出来たイザベルも、それには耐え得ずして遂に発狂してしまったのであった。そして夜毎にミイエジュにある二人の求婚者の墓まで、薄い衣をまとったまま彼女はさまよって行くのだった。そして或る冬の夜、彼女はその墓場に息絶えていた……
リルケは死ぬとき遺言して、そのイザベル・ド・シュヴロンの眠りを妨げてはいけないから、ミュゾットの近くのその墓地には自分を葬らないようにして貰いたいと言ったといわれる。……リルケの墓のあるラロンが、もう殆どシンプロンにも近い位、ずっとロオヌの谷を遡《さかのぼ》ったところにあることは、私が前にも書いたとおりである。その墓の写真が、去年の「インゼルシッフ」のクリスマス号に載っていたそうだが、それもまだ私は見る機会を得ていないのである。
底本:「堀辰雄集 新潮日本文学16」新潮社
1969(昭和44)年11月12日発行
1992(平成4)年5月20日16刷
入力:横尾、近藤
校正:松永正敏
2003年12月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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