ようにして、宮へ上がって往くのだった。
四
女の仕えていた宮が突然お亡くなりになったのを機会《しお》に、女は暫く宮仕えから退いて、又昔のように父母の下でつつましい朝夕を送り出していた。さすがに宮仕えをした後には、女はもう世の中が自分の思ったようなものではない事をいよいよ切実に知り出していた。薫《かおる》大将だの、浮舟だのが此の世にあり得よう筈がない事もわかり過ぎる位わかって来た。が、一方、女はそういうどうにも為様のないような詮《あき》らめに落ち着こうとしている自分が、却《かえ》って昔の自分よりもふがいなく思えてならなかった。
その後も宮からは、絶えず女をお召しになっていた。亡くなられたお方の小さい御子達の相手に女の姪たちを連れて来て貰いたいと云うのだった。女はもう自分だけなら、このまま静かに老いるのも好いと考えていた。それ程女は身も心も疲れ切っていた。しかし、漸《ようや》くおとなびて来た姪たちの事を考えると、此子達だけは自分のようにさせたくないと、折角の宮からのお召を拒みかねて、二人に附添ってはおりおり又出仕をするようになった。が、こん度は女は宮でもまるっきり新参というの
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