さ》のついた帽子をかぶせられて、おばあさんに伴われながら、私はその幼稚園の門の前まで行った。が、私達よりか先きに来て、仲好さそうに運動場で遊んでいる数人の子供たちを見ると、私は急に気まり悪くなって、どうしてもその門の中へはいれず、おばあさんの手を無理に引張って、そのまま帰って来てしまった。
それから二三日、私は、幼稚園へはいるというので父に買って貰《もら》ったその金の総のついた帽子を、家の中でかぶって、一人で絵本ばかり見ながら遊んでいた。或る日、見おぼえのある海老茶の袴をつけた、若い女の人が訪れてきた。私は宥《なだ》めすかされて、又次ぎの日から幼稚園に行くことになった。
翌日、私は再びおばあさんに伴われて、こんどは三十分ほども前から、まだ誰もいない園内にはいって、皆の集ってくるのを、先きまわりして待っていた。最初は唱歌の時間だった。みんな一緒になって同じ唱歌を何べんも繰りかえして唱《うた》っていた。しかし私だけはいつまでも一緒にそれを唱えなかった。しまいには私は火のような頬《ほお》をして、じっと下を向いたきりでいた。あんなに私の好きだったオルガンまで、その時間中、私には意地悪な音ば
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