かり立てているように見えた。次ぎの遊戯の時間になると、他のオルガンが運動場の真ん中に持ち出された。戸外では、オルガンはそんな意地悪をしないのに決まっている。果してそれはいつもの単純な、機嫌《きげん》のいい音を立て出した。みんなはそのオルガンのまわりに、手と手とつなぎながら、環《わ》を描いた。私だけは、ぶらんこの傍《そば》で待っているおばあさんのところに行って、その環の中には加わらずにいた。そうしてみんなが愉しそうに手をあげ足を動かし出すのを側から眺《なが》めていることに、その環の中に加わっては私には反《かえ》って一緒に味《あじわ》えない、みんなとそっくり同じな愉しさを見出していた。
 そういう私を、ときどきみんなを見廻しながらオルガンを弾いていた若い女の先生がとうとう見つけて、無理やりにその環の中に加わらせた。遊戯がはじまって、自分がどう動作したらいいのか分からなくなると、私はオルガンを弾いている先生の方を見ないで、遠く離れたおばあさんの方へ困ったような顔を向けた。そうやってちょっとでも私が足を止めようとすると、私のすぐ隣りにいた私よりか背の高い、目の大きな、ちぢれ毛の、異人さんのよう
前へ 次へ
全82ページ中61ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング