狭いほど、ますます見つかりにくく、そして子供たちにますます愛せられるのだった。
 その裏の大きな溝に、私は或る日、どこの家の所有だか分からない、古い一艘《いっそう》の小舟が繋留《けいりゅう》せられずにあるのを見出した。その日からそれに気をつけて見ていると、それは毎日のように、流れのままに漂って、あっちへ行ったりこっちへ流れよったりしているのだった。私はその小舟をいつか愛し出していた。若し私がそれに乗れたら、その日頃私の夢みていたすべての望みが、何もかも不思議に果たされそうな気がされてならなかった。……


     幼稚園


 桜並木のある堤の下の、或《ある》小さな路地の奥に、その幼稚園はあった。――その堤の上からも、よく晴れた午前などには、その路地の突きあたりに、いつも明け放たれた白い門の向うに、青葉に埋もれたような小さな運動場が見え、みんな五つ六つぐらいの男の子や女の子が入れ雑《ま》じって、笑ったり、わめいたりしながら、遊戯なんぞをしていた。ぶらんこが光り、オルガンが愉《たの》しげに聴《きこ》えていた。……、
 屡※[#二の字点、1−2−22]《しばしば》、その堤へおばあさんに伴
前へ 次へ
全82ページ中58ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング