攀じのぼれないまでも、だんだん一と所の幹にじっとしがみついていられるようになった。或る日、縁側から、母がそういう私らしくない乱暴な木登りを見ていた。いつもならすぐ私がそんな真似をするのを止《や》めさせる母は、そのときはぼんやりした顔をして、私がそんなあぶないことをするがままにさせていた。……
或る日、母が又たかちゃんの手をとるようにして、私のところに連れてきてくれた。たかちゃんはしばらく逢《あ》わなかったので、すこし気まり悪そうな顔をしていたが、しかし私に対する昔の従順な態度を少しも変えていなかった。それが私に「どうして来なかったの?」と思い切って彼女に訊かさせた。と、たかちゃんはなぜか暖昧《あいまい》に「来ないって、お竜ちゃんと約束したんだもの」とだけ返事をした。私はなんだか悔しいような気がしたが、「どうして?」って、それ以上は訊こうともしなかった。そしてただ相手がたかちゃんだけでは何んだか物足りなさそうにしながらも、しかし何処かへ打棄《うっちゃ》らかしておいた、小さな皿や茶碗《ちゃわん》などを一所懸命に掻《か》き集めて、前と同じようなままごとを二人だけでしはじめた。それは大人た
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