加勢ばかりしていらあ。おかしいですぜ」とひやかした。それをきくと、私はかあと耳のつけ根まで真っ赤になって、こんどは自分でも何をするのだか無我夢中に、無花果の木の下にいる、その女の子たちの方へその「水ピストル」を向けながら突進して行った。お竜ちゃんは無頓着《むとんじゃく》そうな、きつい目つきで、何をするのかといった風に、私の方を見つめていた。そういう私を見て、おどおどしながら庭の隅っこへ逃げていったのは、たかちゃん一人だった。
 細工場の方からみんなが面白そうに見ているものだから、私は騎虎《きこ》のいきおいでどうしようもなく、私の前に平気で立っているお竜ちゃんには、ほんの少し水をひっかける真似《まね》をしたきりで、あとは逃げていくたかちゃんを追っかけて、厠《かわや》の前まで迫いつめながら、頭から水をひっかけた。たかちゃんは、もう観念したように、両手で顔だけ掩《おお》いながら、私に水をかけられるままになっていた。
 無花果の木の下では、ほんのちょっと私に肩のあたりへ水をかけられた位の、お竜ちゃんが、いかにも口惜しそうに声を立てて、泣き出していた。……


     入道雲


 一月《ひと
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