んといった。本当に気立てのやさしい子で、私の母のお気に入りだったが、たかちゃんがそういう子であればあるだけ、私はいよいよ好い気になって意地悪ばかりをしつづけた。しかしたかちゃんは私にそうされる事は当り前であるかのように、すこしも気にしないで、毎日のように遊びにきた。そのうちに又ひょっくり、機嫌買いのお竜ちゃんも遊びにくるようになった。そうやって三人で遊び合うようになってからだっても、お竜ちゃんはますますその本領を発揮した。しかしおとなしいたかちゃんは私にばかりでなく、そういう利《き》かん気のお竜ちゃんに対しても、すべて控え目にしていた。そのために殆ど仲違《なかたが》いもせずに、三人で仲好く遊びつづけていられた。尤《もっと》も、ときどき女の子同志で小さな諍《いさか》いをし合っても、いつも私がお竜ちゃんの味方をするので、すぐそれはおしまいになった。それは初夏の日々だった。いまは厚い大きな葉を簇《むら》がらせた無花果の木が、私達に恰好《かっこう》のよい木蔭をつくっていてくれた。私達はときどき花莚の上に三人ともごろりと寝そべって、じっとその下に冷たい土の肌《はだ》ざわりを感じ合ったりしていた。
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