てその一番|隅《すみ》にある、やっとその中に自分の小さな体がすっぽりとはいれるような灌木《かんぼく》のかげに身をひそめて、誰にも見られぬようにしながら、一人で悲しんでいた。私はそうやって自分ひとりで悲しんでいれば、すべてが好くなると、なぜかしら思い込んでいた。そうしてそのために其処へ身をひそめただけで、もう目頭《めがしら》が一ぱいになって来るのを、やっと怺《こら》えながら、垣根の向うの、一面に雑草の茂った空地を、何か果てしなく遠いところのものを見ているかのように見ていたりした。或る日なんぞは、そういう自分の目の前に女の子のもつ手毬《てまり》くらいの大きさの紫いろの花がぽっかりと咲いているのに気がついたが、すぐそれへは手を出さずに、ひとしきり泣いたあとで、漸《ようや》っと許されたように、それをおずおずと掌《てのひら》にのせて弄《もてあそ》んだりしていたこともある。(註二)
 そうやって私が庭の一隅にいつまでも身をひそめていると、そのうちに漸っとおばあさんが私を捜しに来た。いつもの私の隠れ場をよく知り抜いているくせに、おばあさんはわざとそういう私に気がつかないようなふりをして、何度も私の名
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