、ときどき何かのはずみに――丁度そんな幼時の自分の場合に似て、半ば自ら好んでだが、一人きりみんなから仲間はずれにされているような場合に、――私はふいに自分がそんな幼い顔つきをしているのを感ずることがある。そういう場合に、すっかり大人寂《おとなさ》びた私にまで、何んとなく無性に悲しいような、それでいて何んともいえずなつかしい、誰かに甘え切りたいような気のされるのは、思えば、それはこういう自分の幼時に屡※[#二の字点、1−2−22]《しばしば》経験された、切ない感情の思いがけない生れ変りに過ぎないのだということが、いま漸《ようや》く、私にはっきりと分かって来る。……
そういうちょっと誰にともつかず拗《す》ねたような気もちになっていたあとで、私はよく何も知らない母やおばあさんに、何んということもなしに、甘えられるだけ甘えて、いつまでもむずかっているより他《ほか》はしようのない自分自身を見出すのだった。しかし彼女たちだって、私の訴えるものを解せないので更にどうしようもなく、又そういう自分の心が何物によっても癒《いや》されないということが幼い私にも予覚せられていたのだったけれど、ただそうやっていつまでもむずかり、甘えていられる対象が自分の身近かにあるというだけで、それだけでもう少年には好かったのだった。
お竜ちゃんは私と友達になったように、誰とでもすぐ友達になった。そうやってときどき一人でこっそりと私のところへ遊びに来ているかと思うと、急にまたちっとも来なくなってしまった。そうしてどこか余所でもって他の男の子や女の子たちと平気で遊んでいた。……私は自分と一番仲好しになって貰《もら》おうと思って、お竜ちゃんとうちの庭で遊ぶことを母に許して貰ったり、ままごと道具なんぞをいくつもいくつも買って貰ったりして、それとなくお竜ちゃんの機嫌《きげん》をとることを覚え出した。庭の一隅にある大きな無花果の木かげを、私はお竜ちゃんと二人でままごとなどして遊ぶ場所に決めていた。そうしてお竜ちゃんの来ないときも、いつもそこへ花莚を敷かせて、お竜ちゃんの来るのを心待ちにしながら、一人で遊んでいた。……お竜ちゃんの家には私の嫌いな腕白《わんぱく》の兄や弟たちがいるので、私は決して自分の方から彼女を呼びに行こうとはしなかった。そうしていつかやって来るにちがいない彼女のために新しく買ったままごと道具は
前へ
次へ
全41ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング